所沢生活村に有機無農薬のお米を届けいただいている高畠の中川淳さんから、素敵なお便りが届きました。
こんな創意工夫をこらして「ふゆみず田んぼ」の除草をされているなんて、なんてすごいんでしょう! 驚きとともに、尊敬の念がこみあげてきます。
お米のおいしさの裏側にある大切なものを噛みしめながら、味わいたいですね。
中川さんのお便り、どうぞ、お読みください♪
チェーン除草機「すだれ2号」
こんにちは。ふゆみず田んぼで穫れた無農薬・無肥料のお米を皆さんに食べていただいている高畠町の中川淳です。今回は田んぼの除草についての話題です。
6月の初め、田植えの終わった田んぼは、朝夕の水見どきを除いて、人影はまばらです。米とぶどうの複合経営の農家が多いこの地域では、ぶどう園での細かい仕事に忙しい時期なので、なおさらです。
静まりかえった田んぼにジョーッ、ジョーッと水音を響かせて、私は自作のチェーン除草機「すだれ2号」を引いて歩きます。この除草方法は、『奇跡のリンゴ』の木村秋則さんの発案に基づき、宮城県の長沼太一さんらが2005年ころから実用化したものです。私も農文協の『現代農業』などの記事でこれを知り、2008年から試作1号機を引き初めました。すだれ2号は長さ2メートルのパイプに60本の短いチェーンをぶら下げたもので、私は手にスキー用のストックを握り、除草機を腰のベルトにつなぎ、ぬかる田んぼの泥にチェーンを引きずって歩きます。チェーンは細かく揺れながら水中に泥を巻き上げ、田んぼ全体が泥色に染まっていきます。作業は単純で、稲を踏まないように気をつけながら、方向を定め、ペースを保って歩けばそれでいい。脚力と持久力は必要ですが、腰に持病のある私にも安心です。
水田の除草というと、当地では、昭和30年代に普及した手押しの除草機が、除草剤の登場による中断の時期を経て、現在の有機農家に引き継がれています。動力も含め、この除草機にも幾つかのタイプがありますが、手押しの主流は、爪の付いたドラムが回転して田の土を起こしていくものです。田植え後2週間くらいから始めて、2回から3回除草機を押し、田に生えた草を埋め込んだり浮かせたりして数を減らします。
田植え後2週間というと、生えてきた草の姿がはっきり見えるものの、指でつまみ取るにはまだ小さいという段階です。小さく見える草ですが、地下には葉の何倍もの深さの根を伸ばしています。
私がすだれを引き始める田植え後数日の田では、手押し除草機は小さな稲に対するダメージが大きすぎて使えません。でも、土の表面に発芽したばかりの草を、チェーンで泥の表面をなでるように攪拌して土から離し、あるいは土の粒子で覆って、発育を止めることができます。この方法は草の姿がはっきり見えてからでは遅すぎます。全面をなでていくので、株間・株元を問わず除草できることも大きな特徴で、無農薬の田の初期除草に適した除草方法です。稲自身のダメージは、水口の冷水やイネミズゾウムシの食害によって活着が遅れた苗が消えていく程度で、普通に植わっている苗は影響を受けません。1回目のすだれ引きがうまくいけば、草は育たず、2回目も同じ効果を期待できます。
農家に育った人なら耳にタコができるくらい聞かされた言葉「上農は草を見ずして草を取る」。私のような後発の者には、理解に時間がかかりました。田植え直後のきれいな田を見たら、この田が草で充満するなど、考えられません。ましてやわざわざ入ってかき回したら稲がかわいそうです。他の人だって大きくなった草を頑張って手で取って、立派に米を収穫してる。さあ、頑張らなくちゃ!!……… 今ではわかりますが、これは問題先送りの、都合のいい思い込みでした。どの農家も、ギリギリの体力・気力勝負で草を取り続けてきたのです。決して十分な時間と体力があった上で、余裕のある仕事ができていた訳ではないのです。
上記、耳タコの言葉は、初期除草の大切さを教えてくれます。一例に過ぎませんが、ふゆみず田んぼとすだれを組み合わせた田では、生きものの多さもあって、すだれ引きのあとの手押し除草機を使うことがほとんどなくなりました。
私がすだれ引きを始めて15年。初年度の2008年から数年間、『現代農業』には毎年のようにチェーン除草の記事が出ていました。それによると、当時既に一部の地域ではチェーン除草の技術がほぼ確立しており、数台の乗用除草機に取り付けて何10町歩という面積の田で使われているということでした。私もこれらの記事を一生懸命読みました。こうした初期除草の技術は、もっと大切に受け継ぎ育てられていっていいのではないでしょうか。
さて、再びわが家の田んぼです。私はすだれを引いて田を歩くとき、たいていサングラスをかけます。水面に反射する陽光がまぶしいからですが、前方の水底を観察しやすくするためでもあります。生え始めた草の状態や、他の生きものの生育状態を見ることが楽しみで、次の作業を考えるための情報も得られます。
私はすだれ引きをしながら、田に棲む生きものたちに助けられて、稲を育ててきました。限られた私の経験からしても、除草の主役は生きものたちです。泳ぎ回り、土を食べ、水を濁らせて、草の生育を妨げてくれます。私はすだれとともに彼らの役割を補助しています。季節が進むにつれて、除草の主力はすだれからイトミミズやユスリカの幼虫、藻類、さらには稲自身へと移り変わっていき、田は出穂の時期を迎えます。
生活村より
高畠などへの現地訪問ではいろいろな除草の方法を拝見させていただきます。耕地の形や位置に応じての選択、合鴨やアヒル、ザリガニや鯉という動物の力を借りる方法、畑ではヤギさんにお任せすることもあるとお聞きしました。そして上記のような様々な器具、装具を駆使しながらも自然の力を頼りとする方法などなど。農家さんの創意工夫がいっぱい詰まった除草の方法には大変さとともに草に立ち向かっていく知恵の喜びのようなものを感じます。いま、新たな除草の方法として紙マルチが高畠だけでなく全国で広く利用されていますが、再生段ボール紙の持つ危うさ、不確かさという問題が浮かびあがってきました。でも、きっと、もっとより良い方向に向かっていくであろうことを願い信じています。
除草の方法のご紹介を募集しています。皆さんにお勧めしたい方法や苦労話などなんでもお寄せいただけたら幸いです